ワードミキ:がん告知の難しさ、医師がつづった本音
未完成の本、HPで公開/兵庫
◇出版断念の編集会社
「患者さんの生き方を決め付けるのでなく、人の生きる力を応援するのが本当の役割」。阪神間の医師7人が、がん告知の難しさなど本音をつづった原稿がインターネットで紹介されている。医師が学会発表で使う冊子の編集などを手掛けてきた「ワードミキ」(西宮市池開町3)が本にまとめる予定だったが、経営難で断念。それでも「一人でも多くの人に読んでほしい」とホームページでの公開に踏み切った。
同社の三木貞代社長(58)は約15年前から歩けなくなるぐらいの足の病気に苦しんだ。仕事柄、医師との付き合いは広かったが、患者の立場になってみると、医師の言葉一つに気持ちが浮き沈みした。両者の理解がもっと進んでほしいと願い、出版化を目指した。編集会議に知人の医者に入ってもらい、取材はプロのライターに依頼。守秘義務を盾に取材を断られるケースも多かったが、3年ほどで7人分の原稿が集まった。
耳鼻科医は患者へのがん告知を振り返り、「患者さんは別の受け止め方をする。がん克服の精神的なケアは不十分」と指摘する。泌尿器科医は患者のがんの影が民間療法で小さくなったのに驚き、「生きる力の強さを感じた」とつづる。深刻な話題だけでなく、禁煙を巡る患者とのやりとりなどもユーモアたっぷりに書かれている。
最盛期には20人近く従業員がいた同社も、パソコンの普及で主力のスライド注文が激減し、今では三木社長と弟で専務の宏さん(52)の2人だけで切り盛りする。初めて挑んだ出版の夢は消えたが、三木社長は「ああでもない。こうでもないって楽しい毎日だった。最終的に原稿を世に出すことができてよかった」と話した。【井上大作】
〔三田版〕
毎日新聞 2006年7月26日
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